前回のあらすじ
 アクセサリーを身につけるのは嫌だというおれに指輪を金の鎖に通して首にかけた。運命の女性に思いを込めて、それまで自分が身につけていたダイヤモンドをプレゼントする。おれはこの話で一気にダイヤに興味を持った。

 1カラットのダイヤの指輪を男の人からもらったら女性はものすごく嬉しいのだそうだ。ダイヤモンドの1カラットの上は2カラットになって、そこまで行くと簡単に買えるものではなくなるらしい。だから、女性に1カラットのダイヤモンドをあげるとそれ以上のものを欲しいとは言わないということだ。これはココ山岡の「お姉さん」がそう言っていただけだからホントのところは分からない。

 すっかり欲しくなっていたおれは、若いお姉さんと一緒におれの無駄使いチェックによる4万円から月々2万円弱の支払いとボーナス月に10万円で、30歳までに180万円のダイヤの指輪を買えるというローンを組み立てたいた。サインをするだけで、今すぐに指輪を持って帰れるのだ。
「他の人には内緒だけど、カレだったら消費税はいらないわ。この金の鎖もサービスしちゃう。18万円するのよ」
 そしてもう一つファイルを持ち出してきておれに見せた。中身はこの店で指輪などを買った人たちの写真だった。みんな販売員のお姉さんと一緒ににこやかに写っていた。男だけではなく、女の子もいた。
「みんな嬉しそうでしょ。この人たちはひと月に一回は店にきてもらって、アクセサリーの手入れをしているのよ。壊れたときは、どこのココ山岡に行っても無料で直せるの」
 そのとき奥の方でぴかっと何かが光った。インスタントカメラのフラッシュだった。
「あの男の人もあなたと同じ歳よ。さっき私たちと一緒にがんばるって言って買ってくれたの。カレも一緒にがんばろうよ」
 今思うと店の人が一緒にがんばってくれるというのは変な話だが、その時は売る人と買う人という関係では無い感じがしていたのは事実だ。
「今、ここで決めることが重要なの。今の気持ちで決めないとダメ」
 この言葉も素直に受け入れられた。なぜかこの場で決めることに意味があるような気がしていたのだ。しかし、おれの頭の片隅では、3500円のハンドマイク型ボイスチェンジャーを買いにきたのに、180万円のダイヤの指輪を買うことになるのが、いまいち引っかかっていた。おれは家に帰って考えたかった。今、決めないと神聖なものが壊れてしまうとでも言いたそうな「お姉さん」におれは、何度もうちに帰って考えたいと言った。
「明日、また来ます」
 おれは本当に指輪が欲しかった。明日の日曜日にでもまた買いにくるつもりだったのだ。すると「お姉さん」の態度が急に冷たくなった。
「カレのような蟹座でA型の人は本当に慎重なの。もういいわ」
 吐き捨てるようにそう言うと、目の前にあったココ山岡の便せんを手に取りビリビリ破った。若いお姉さんもまたショーケースの向こうに行き、おれはひとり残された。こんなに欲しいのになんでという思いがした。

 帰りの地下鉄の中でもダイヤの指輪のことが頭から放れなかった。家に帰ってすぐに母に言った。
「おれ、ダイヤが欲しいんだ」
 ココ山岡であったことを話し始めて少ししたところで母は言った。
「そんなもの買ってもしょうがないじゃない」
 おれは真剣にダイヤが欲しかったのに話をまじめに聞いてくれない母に少し怒りを覚えた。夕食を終えて風呂に入っているときもダイヤのことを考えていたが、なぜか、次の日になるとすっかり忘れていた。

 おわり

ココ山岡とダイヤモンドとおれ(あとがき)につづく

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