Quickca Fight Jun 24, 1997
くしゃみはハンカチで受け止めよう-->ツバキ奇怪人エクショウ登場

日は多少は仕事もはかどったんじゃないかと思う。ま、今までにしてはだが。

「エクショウ! エクショウ!」
 突然、字で書いたようなくしゃみをするおっさんが現れた。電車の通路を歩きながら、エビのように腰を折り、全身を使ってくしゃみをしている。許せないのはそれほどの大きなくしゃみをしておきながら、ハンカチや手で口を押さえないところだ。おれの前にきたときにもくしゃみをするので注意をした。
「すみません、くしゃみをするときは手で口を押さえてもらえませんか?」
 一瞬、怪訝そうな顔をされた。周囲からも注目されてしまった。おっさんは何も言わず歩いていき、少しはなれたところの座席に座った。
「エクショウ!」
 またくしゃみをしている。今度は口を読みかけの本で押さえていた。しかし、よくみるとその本には図書館のシールが貼ってある。うへ〜。もう我慢できない。
「チェーンジ、クイッカマン。セットアーップ!」
 クイッカマンの変身ポーズをとった。右腕にはめたクイッカアルバスプーンを左ひじにあてボタンを押す。その瞬間、クイッカアルバスプーンからクイッカパワードスーツのホログラム映像が浮かび上がり、おれの体に重なる。
「定着!」
 この間、0.01秒。
「悪、滅っ、正、栄ぃ! クイッカマンン!」
 悪滅正栄(あくめつせいえい)クイッカマンの見栄切りポーズだ。やり方は近いうちに教えよう。
「まて、おっさん。それはみんなで大切に読まないといけない公共の本じゃないか。それでくしゃみを受け止めるとはどういうことだ!」
 おっさんははじめ自分のことだとは気がつかなかったようだった。きょとんとしておれを見ている。ウォンバットのようなかわいい感じの顔だったが、見る見るうちに醜悪な表情に変わった。
「おまえがクイッカマンか。おれはツバキ奇怪人エクショウだ。とりゃー、エビぞりエクショウ!」
 エクショウはいったん大きく後方に反り返り、そこから戻るときの反動を利用して大きく唾をまき散らした。これでは注意したのが逆効果だ。
「こっちだ、エクショウ」
 タイミングよく電車は海浜幕張駅に停車した。おれは外へ出て列車の屋根へ飛び上がった。エクショウは列車の中から屋根を突き破り飛び出してきた。
「エビぞりハイジャンプエクショウ!」
 大ジャンプをしながらおれに唾をかけてきた。エビぞることで口元が見えなくなり発射のタイミングが取れない上に、ハイジャンプでストライクゾーンを三次元で考えなけらばならなくなるのだ。胸のプロテクターにまともに1発くらった。プロテクターが溶ける!
「ぎょえー」
 まことちゃんのような声を出してしまった。

 説明しよう。おれのクイッカスーツのプロテクター部はポリカーボネートにグラスファイバーを30%添加したプラスチックを使っている。シキモノモンガーとの戦闘の反省からだ。クイッカパワーで強化されたNewton MessagePad 1200は描いたのものを現実にする力を持っているが、それには制限がある。現実に存在し得ない物質は作ることはできないし、物理理論に反することは実現しないのだ。そのため学生時代からの友人で、旭化成のテナック技術部に勤めている稲葉氏に頼んで素材を検討してもらった。その結果、上記のプラスチックを特殊コーティングしたものを採用することにした。軽い上にアイゾット衝撃値20(kgcm/cm)、熱変形温度500℃を実現したのである。しかし酸とアルカリには弱い。これは敵には内緒だぞ。
 おれは周りの景色を見た。辺りは暗いがホテル群が明るく光り、ホテルフランクスのチャペルの赤い尖塔はライトアップされている。海浜幕張と言えば幕張メッセのある駅だ。ここは最近の戦隊ヒーローもののロケ地としてよく使われている。おれの頭の中に忍者戦隊カクレンジャーのオープニングテーマが流れはじめた。
「パワー100倍! クイッカダブルヨーヨー!」
 両肩に付いているQuickCamを取り、組み替えるとクイッカヨーヨーとなる。おれは2、3度クイッカヨーヨーをすばやく上下させた。そのまま今度は下から上へ向けて手をスナップさせヨーヨーを前方へ放り出しエクショウへぶつけた。
「ぐぉぉぉぉおおおお!」
「ダブルクイッカ・ループ・ザ・ループ」
 激しく回転するヨーヨーはエクショウにぶつかると火花を散らした。両手のクイッカヨーヨーでエクショウを連続攻撃だ。
「おのれ、クイッカマンめ…、うううう」
 ちゅどーん。エクショウは大爆発を起こした。爆炎を受けて幕張プリンスホテルの青い氷のような建物の壁面がオレンジ色に輝いている。
「今日はオチがないな」
 おれは稲毛海岸に到着する電車の屋根の上でひとりつぶやいた。