Quickca Fight Jan 31, 1997
乱暴なタクシー運転手-->香港B型奇怪人エンザ登場

ういう訳で今日も延岡だ。昨日は青空で風も無く暖かい良い気候だった。南にきたということを実感できたんだが、あいにく今日は朝から冷たい雨が降っている。客先での打ち合わせは朝9時からだ。ホテルをチェックアウトするときにタクシーを呼んでもらい、おれと上司は雨を避けながらそれに乗り込んだ。
「ごほごほ、どちらまで?」
「支社までお願いします」
 これで通じるぐらい、このあたりでは有名だ。
 おれたちがタクシーの乗り込むと運転手はバタンとドアを閉めた。タクシー内で態勢を立て直す間もなく、運転手はタクシーを急発進させた。おおぃ、乱暴すぎないか?
 ホテルからすぐの交差点をかなりのスピードで右に曲がる。その次の停止信号でも急停車・急発進だ。何だこいつは。おれは助手席にある運転手の顔写真と名前を確認した。山田安典、昭和8年7月15日生。ううむ、こんなやつと誕生日が同じなんて。
 その時、タクシーが停止した。見慣れない風景だった。目的地とは違う。まだ数回しかきたことはないが、間違えるはずはない。
「あのう、"支社"って言ったんですけど…」
「ごほごほ。そうさ、"死者"だよ。おまえがな、クイッカマン」
 運転手はそう言うとおれの方に向き直った。写真の顔じゃない。素顔ははじめて見たが、この咳、この重病人のような顔は、香港A型奇怪人インフルに違いない。ついに直接対決を挑んできたのだ。しかし、側には上司がいる。変身はできない。おれがクイッカマンであることがバレては困るのだ。
 そんなおれの動揺を見破った下のように、隣に座っている上司がおれの方を向いて言った。
「心配はいらない。あの男なら一足先に目的地に着いている」
 言うと同時につい先月の新婚旅行で日に焼けた顔がみるみる重病人のような青白い顔になった。何ということだNEO-SEA-HORSEの奇怪人が上司にすり変わっていたのだ。
「おれは香港B型奇怪人エンザだ。いくよ、兄さん!」
「おう、弟!」
 しかも、こいつら兄弟だ。弟のことを「弟」と呼ぶのは、キョーダインかバイクロッサーぐらいだろうと思っていたぞ。

 上司がいないとなったら、気にすることはない。
「チェーンジ、クイッカマン。セットアアアップ!」
 おれは睡眠たっぷりの軽いからだで力強く変身ポーズを取った。出張先の夜はやることがないので早く寝る。ま、飲みに行って午前2時に寝ることもある。それでもうちにいるときよりは早いのだ。
「とぅ! 大回転キーック、大車輪投げー!」
 歴代ヒーローの必殺技を連発した。先週の土曜日にTSUTAYAでビデオを借りて研究したのだ。インフルとエンザはおれの左右に吹っ飛んだ。
「はははは。インフル、そしてエンザ、出張先でおれを襲ったのは間違いだったようだな」
 おれはインフルを大袈裟に指差して言った。まるで宮内洋が乗り移ったかのようだ。しかしインフルたちも負けてはいない。
「減らず口はそこまでだ。いくぞ、弟!」
 インフルは反対側にいるエンザに向かって叫ぶとおれに向かって突進してきた。
「おう、兄さん!」
 エンザも突っ込んでくる。しまった、挟み撃ちにするつもりか? よし、おれはエンザに向かって突進した。
「今だ、弟。インフルエンザA型光線っ!!」
「おう、兄さん。インフルエンザB型光線っ!!」
 おれは突進しながら、エンザの直前で左前方へのステップを踏み、アメフトのタックルを避ける要領でエンザをかわした。その時、丁度、インフルのA型光線がおれの右脇をかすめ、エンザを直撃。
「に、兄さぁぁん、A型には耐性が無いんだよぉう」
 ちゅどーん。
「弟ぉぉぉ!」
 インフルはエンザの元に走った。ぐったりとしたエンザを抱え呆然と宙を見上げている。
「ごほごほ。ごほごほ、ごほ、ごほ、ごほごほ、ごほ、ごほ」
 インフルもまた胸にもエンザの放ったインフルエンザB型光線を受けていたのだ。
「うっちー様…。先日は私の体を気づかう優しいお言葉をありがとうございました…、ごほごほ、ごほ、ごほ」

<インフルの回想(Text: 魔導師うっちー)>

うっちー: くっくっく、九州出張ごくろうだった、インフルよ。
おみやげの、干ししいたけは早速ダシとりに使わせてもらったぞ。ミネラルたくさんで、とってもヘルシーだ。やはり、悪の基本は健康だからな。味も良好。うまかったので、また、買ってくるように。
インフル: ゴホゴホ、健康と言われても、あたしゃこの通りインフルエンザ持ち歩いてますんで。
うっちー: 風邪にはミネラル成分が良いらしい。どれ、干ししいたけでダシをとった、特製のおかゆを作ってやろう。
インフル: いいえ、結構です。ゴホゴホ。風邪じゃなくなると、怪人に変身できなくなりやすから。
うっちー: うーむ。そうだったな。さすがは、インフル。仕事の鬼だな。だが、あまり無理はするなよ。
インフル: 今年は、あたしのウイルスが猛威を奮いやすぜ。
うっちー: ほどほどにしておいてくれよ。あんまり、患者を増やしすぎると、計画が狂ってしまう。
インフル: 分かってやす。今回の計画は、老人をわざと風邪にして、日本の老人福祉を見直しさせようって計画でしたからね。当の老人に危害加えちゃ、本末転倒ってヤツでさあ。
うっちー: 分かっていればよろしい。では、任務遂行を。
くっくっく。
</インフルの回想(Text: 魔導師うっちー)>

「ごほ、クイッカマン、お前の強さの源は正義は必ず勝つという思いこみだ。ごほごほ。だが、"邪悪"には気を付けろよ…。ごほごほ、ごほ、ごほ」
「邪悪?」
「ごほごほ、NEO-SEA-HORSEに栄光あれ! ごほごほ、ごほ、ごほ」
 ちゅどーん。
 インフルとエンザは消えてしまった。これで全国的に流行っているインフルエンザの猛威も消えることだろう。しかしインフルが最後に言った"邪悪"とはいったいなんだ?
 おれは不安を胸に抱いたまま、支社に向かって時速100kmで駆け出した。