日記

ココ山岡とダイヤモンドとおれ(その1)

 ある土曜日の午前中に横浜駅西口方面に出かけた。当時オープンしたばかりの東急ハンズに行くつもりだったのだ。
 天気予報では台風が来るということだったので、ハンズは不思議と人が少なかったのを覚えている。それまでは外から見てもすごい混みようで、あと一ヶ月は行くまいって思っていた。すいていたのは午前中っていう時間帯もあったんだと思う。中は渋谷のハンズよりも広々としていて、とてもいい感じがした。おれはそこでNeu(ノイ)というカードゲームとマグネットを買った。マグネットは会社でメモを留めておくために使うつもりだったのだ。そうだ。そのころ、おれはまだ会社に入りたての新人で、教育が終わって本配属されたばかりだったのだ。
 確か、その次の週の水曜日に会社の同期の飲み会があった。それまで新人教育を一緒に受けた仲間と飲むのだ。おれはそこで司会をやる予定になっていた。会場は渋谷の大きな居酒屋を予約していたので、きっとうるさいからオモチャのハンドマイクでもあったらいいなと思っていたのだ。前にどこかのオモチャ屋でボイスチェンジャーでハンドマイクになったやつを見かけてそれが頭に残っていたようだ。
 ハンズでしばらくハンドマイク型ボイスチェンジャーを探したんだが売っていなかった。普通のマイクのような形のならあったのだが。
 それからすこし他のフロアを見てハンズを出た。
 おれはそのまま近くのビブレ21に向かった。ハンズができるまで、横浜でこの手の買い物と言えば、ビブレの中にあるキディランドと相場が決まっていた。最近、ハンズができてキディランドは明らかに臨戦態勢を取っているようだったので、ハンズの袋を持ってキディランドに行くのはちょっとためらわれた。
 キディランドの売場はフロアの一角という感じでしかないんだが、結構いろんなものがある。おれの欲しかったものはすぐに見つかった。おれは3500円を出してハンドマイク型ボイスチェンジャーを買った。カードゲームのところを見たらNeuは売っていなかったので、どっちの店も一長一短といった感じだ。

 おれはしばらくその辺りをうろうろして、ウィザードリーのテーブルトークRPGセット等を物色した。さて帰ろうかなという頃に誰かが「カレ、カレ」と言っているのが聴こえた。声のする方を見たらきれいなお姉さんがおれを呼んでいるではないか。おれは「彼」を二人称で使う人に初めて会った。今まででもその人だけだ。
 お姉さんはココ山岡の販売員だった。彼女は指輪やネックレスが入ったきらきらと明るいショーケース越しに手招きをしていたのだ。

ココ山岡とダイヤモンドとおれ(その2)につづく

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