「ぐぐぐぐぉぉぉ、これで終わりなのかぁ!」
意識がどんどん薄れていく。痛みも感じなくなってきた。
「クイッカマン、しっかりしろ!」
頭の中に声が響いた。
「黒いクイッカマン?」
車のヘッドライトを逆光にして、黒いスーツのクイッカマンが立っていた。
「正義は負けない。その思い込みが、お前のパワーだろ!」
そうだ、正義は負けない。ピンチになっても最後は必ず正義が勝ち、悪は滅びるんだ。
「クイッカマン、これを使え」
黒いクイッカマンはおれに何かを投げてよこした。おれは体を起こし、それを受け止めようと右手を伸ばした。飛んできたそれが右手首にカチリと吸い付いた。
「なんだ、これは?」
手首に装着したそれから、まぶしい光が発せられた。心に勇気が戻るのを感じた。
「クイッカマーーン、フッラーァァッシュ!!」
不思議な衝動に駆られ、おれはそのように叫んでいた。
「クイッカマン、それはクイッカエアプロ長野オリンピック限定モデルだ。おまえの心に勇気が足りなくなったときに必ず力になる。使い方はおまえの想像力次第だ」
「クイッカエアプロ…」
「なに、ごちゃごちゃやってるんだ、おれを無視しやがって」
クルマニヨンが、たばこの灰を道路に落としながら、横柄な態度で言った。
「勇気が戻れば、おまえみたいなヤツは敵ではない。クイッカロングソード+1!」
腕のクイッカエアプロが消え、右手に剣が現れた。クルマニヨンが突進してきた。奴の手にも剣が握られていた。おれもクルマニヨンに向かって走る。
「うぉりゃ!」
「とお!」
両者、ジャンプした。空中で剣がぶつかる。
「クイッカティルトウェイト!」
クルマニヨンが着地した地面から火柱が上がった。
「ぐぉぉぉぉ! ロングソードを装備できるくせにメイジ呪文が唱えられるなんて、ありかよ…」
ちゅどーん。
「サムライならできるのさ」
クイックちゃんがそばに来た。
「やったね、クイッカマン。今度はWizardryをパクルの?」
「ははは(笑)。ところであの人は?」
クイックちゃんは不思議そうな顔をしてこっちを見た。
「あの人って?」
「ほら、おれにこれをくれた人だよ」
おれは右腕をちょいと動かした。?、そこにはいつものクイッカスプーンがあった。
「あれ? おかしいなぁ。黒いクイッカマンにクイッカエアプロをもらったんだけど…」
「黒いクイッカマン? かっくいー。でもそんな人いなかったよ」
何だったんだろう、あれは? おれは千葉行きのリムジンバスに乗っていた。クイックちゃんが別れ際に、自分も変身できるようにして欲しいって言ってたっけ。おれのピンチが見てられなかったんだろうな。
デックス東京ビーチの明かりが右手に見える。おれはクイッカマンとして生きる決意をした。
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