Quickca Fight Sep 29, 1997
MacOS8(日本語版)購入-->無節操携帯奇怪人コワダカバーン登場

葉原にMacOS8を買いに行った。1本は無償アップグレード、もう1本は7.6からのアップグレードだ。実は今日から1週間休暇なのである。今、休まないと、もう休めないという感じなので休んだ。明けてから、むちゃくちゃ大変になりそうだが、そのときはそのときだ。

 帰りの電車の中で突然、携帯電話のベルが鳴る。持ち主は隣に立っている土建屋社長ふうの男だ。その男、電話に出ると大きな声で話しはじめた。近頃は携帯電話を使うマナーがうるさく言われるようになっているのであまり見かけなくなっていた奇怪人だ。だが、最後には必ずこういうヤツが残る。
「あー、おれ。今? 山手線。そう」
 男は周囲の冷たい視線をものともせず、大声で電話を続けている。
 うぬぬぬぬ。こういうマナーの悪いヤツがのさばって、マナーを守ってる人間がそれに耐えなければならないのだ!
「無接装奇怪人コワダカバーン、おれが相手だ。チェーンジ、クイッカマン。セットアップ!」
 コワダカバーンは微動だにしない。なめられている。それなら一気にかたをつけてやる。
「クイッカCCDフラーッシュ!」
 コワダカバーンは手のひらをさっと振り"あっち行け"をした。そこに信じられないものが現れた。
「ATフィールド?!」
 幾何学模様の光彩を発するバリアにCCDフラッシュが跳ねかえされた。
「く、くそっ」
 コワダカバーンはなおも電話を続ける。
「あべちゃん、いる?」
 このこのこのこの、このぉー! おまえの知り合いの名前なんて知りたくないんだよ。
「クイッカパンチパンチパンチパンチキック(PPPK)!」
 これも効かない。それどころか、まるで、シカトだ。おれはクイッカマスクの下で歯ぎしりをしていた。どうすればいいんだ?

 そのとき、おれの背後から聞いたことのあるかわいい声。
「超常美少女クイックちゃん、可憐に登場。ただいま正義の見習い中!」
 ああ! クイックちゃん。自ら美少女と名乗る謎の美少女だ。クイックちゃんはおれと背中合せの体勢をとった。
「クイッカマン、このポーズ決まってるでしょ。ストロンガーのビデオで研究したんだよ」
 なるほど、そう言えば。
「コワダカバーンはわたしに任せて!」
 そう言うとクイックちゃんはコワダカバーンに向って行った。
「クイックちゃん、危い!」
 クイックちゃんのスーツは、彼女が趣味でしているただのコスプレなのだ。技を食ったらひとたまりもない。おれはクイックちゃんのそばにさっとついた。コワダカバーンはなおも電話を続ける。
「机の上のメモ。そう、明日の18時に直江津」
 するとクイックちゃんはコワダカバーンに負けない大声を出した。
「へぇ、直江津って新潟だよね。朝の6時なんて早起きだねっ!」
 コワダカバーンがクイックちゃんをちらっと見た。今まで完全無視だったのにすごい。
「すごいぞ。クイックちゃん!」
 コワダカバーンは、なおも話を続けている。
「あべちゃん、外出か。さいとうさんと一緒? あいつら仲いいな」
「あべって人はたいてい"あべちゃん"って呼ばれるね」
 と、すかさずクイックちゃん。コワダカバーンが少し小声になった。ATフィールドの光彩はにぶくなり明らかに弱くなっている。おれもクイックちゃんに加わった。
「たろうって名前の人は、名字で読んでもらえない上に"たろう"って呼び捨てにされがちじゃない?」
「そうそう。あの人の話している、あべちゃんとさいとうさんって恋人同士なんじゃないの?」
「お! 仕事中にデートしてるんだ。うらやましい」
 そのときコワダカバーンのATフィールドは完全に消失した。と同時に電話も切れた。
「お前ら〜。なんでおれの電話に答えるんだぁ!」
「クイッカマン、チャンス!」
 クイックちゃんの声にうなずいて、おれは両手を大きく横に開き、全身のクイッカパワーを指先に集中した。ボール状になったクイッカパワーを胸の前でひと固まりにして、コワダカバーンめがけて投げつけた。
「クイッカランバルト光線!」
 青白い光の球がコワダカバーンを貫く。ふふ、おれもティガのビデオで研究したのだ。
「ぐぉおお! お、おばちゃん集団の世間話もうるさいけど、それは放っておくのかぁああ」
 ちゅどーん。
 コワダカバーンの体は一瞬爆発の様子を見せたが、ランバルト光線の中心部に吸い込まれ完全に消滅した。すばらしい技だ。現代のヒーローはゴミを出さないようにしなくては。

「クイックちゃん、ありがとう」
 おれはクイックちゃんに向き直り言った。
「なんの。これしき、本当のヒーローになるためならね。あ、ヒロインか」

 ヒーローになりたい…。クイックちゃんも気持ちはおれと同じなんだ。東京駅で電車を乗り換えたおれはクイックちゃんの言葉を真剣に考えていた。