Quickca Fight Feb 1, 1997
新小岩の夜は更けて-->魔導師うっちー登場

導師うっちーからメールが届いた。サブジェクトに970201とだけついた怪しげなメールだ。
日時:2月1日
時刻:17時
場所:JR新小岩駅構内(詳細は地図参照)
 駅構内の地図も添付されていた。

 指定の時間にそこに行ってみると遠くの方から黒マントの男が近づいてきた。
「くっくっく、よく来てくれた、あきびょんくん。いや、クイッカマン」
 黒マントの男の側を周囲の人たちは気にせず通り過ぎていく。
「おれをこんなところに呼び出してどうするつもりだ?」
 すぐに変身…、いや、こんなに人の目があるところでは変身できない。ヤツはそれでこの場所を指定してきたのか?
「まぁ、そう怒るな。今日は戦いに来たのではない。我々の奇怪人を次々と倒すクイッカマンとやらに会ってみたくてね」
 うっちーは言葉どおり全く戦う様子を見せていない。だが、油断するのはまだ早いぞ。
「なるほど。おれも早く貴様を倒したいと思っていたぞ」
「くっくっく、意見があったところで飲みに行こう」

 駅前のパチンコ屋の前ではちんどんやが3人、悲しげなクラリネットと太鼓で客寄せをしている。おれたちが近くに行くと最敬礼の体勢を取った。
「うっちー様!」
「うっちー様!」
「うっちー様!」
 うっちーは満足そうにうなずいた。
「ごくろう、今日は風が冷たいから暖かくしろ」
 そう言って、ひとりひとりに「貼るオンパックス」を手渡していた。

 うっちーとおれは駅前の「北の家族」で飲んだ。日本酒党のうっちーは、新潟の地酒を飲み、世界征服にかける熱い思いをおれに語った。掘りごたつ式の座敷でテーブルを挟んで座っていたので、ウルトラセブン第8話「狙われた街」、メトロン星人が出てきた話を思い出した。
 ヤツが悪の意義を語るならと、おれの正義の源である「戦隊ヒーロー主題歌集」とヒーローものには欠かせない作曲家、渡辺宙明のBGMコレクション「CHUMEI BRAND」のカセットテープを渡した。聴いたときはかなりのダメージを受けるはずだ。

 続いてうっちーの推薦するショットバーへ行った。久しぶりにうまい酒を出してくれるバーに当たった。
「我々は絶対、世界征服をしてみせる。人類が知らないうちに、そして気が付いたら征服されていたというのが我々のシナリオだ」
 なるほど、地味な活動はそのためだったのか。しかし、酒のせいか、少し秘密を話し過ぎだ。バーテン(おそらくこいつもNEO-SEA-HORSEの奇怪人だ)が心配そうにこちらを見ている。
「わかった、うっちー。今日はこのぐらいにしておこう。おれも電車が無くなると困るからな」
 うっちーとおれはショットバーをあとにした。店を出て、総武線の高架下を歩いていたときに後ろからさっきの店のバーテンが走ってきた。
「うっちー様、お忘れものです!」
 バーテンは手にバッグを持っていた。うっちーは「北の家族」でもこれを忘れそうになっていたのだ。
「すまない」
「うっちー様、お気をつけて」
 バーテンは深々とおじぎをして、店に戻っていった。

「クイッカマンよ、今日はご足労ありがとう。これからもよろしく頼むぞ。くっくっく。」
「望むところだ!」
 おれは魔導師うっちーに見送られながら、新小岩駅の自動改札を通った。