Quickca Fight Jan 11, 1997
君はID4を見たか 2-->ぞんざい奇怪人エラソバル登場

日はID4を見るのに敗れた12/22の雪辱戦だ。

9:40am
 有楽町マリオン映画鑑賞券売場前に到着した。すでにチケットを買う人ですごい混雑だ。しかし、おれは前回、映画を見ることを断念したときに、この窓口で既に前売り券を購入していたのだ。
「楽勝、楽勝」
 その時、そばでメガホンを持って立っていた男が叫んだ。
「自由席は既に満席状態です。今から入場なさると立ち見となります」
「なにぃ? まだ、そんなに混んでるのか!」
 まったく、なんて映画だ。どうも映画配給会社に、いいように踊らされてるような気がするぞ。チケットも破格の2000円だしな。男は続けた。
「指定席なら、まだ若干の余裕があります」
 もう、しょうがない。それで手を打とう。指定席になると料金はさらにアップして3000円だったが、おれはこの決定に大人であることの喜びを感じた。まてよ、この感覚は以前にも味わったことが…。

 あれはセガサターン用のバーチャスティックが全国的に品薄だったときのこと。あるとき近所のオモチャ屋に5個入荷するというので開店前に行ってみたのだ。はじめ並んでいる者はひとりもいなかったが、少しして子供がやってきた。最終的にはおれの後ろに4人並んだ。これで5人だ。
 店が開いた。おれはレジのところに進んで、言った。
「バーチャスティックください。2個」
 話を戻そう。
 おれはメガホンの男に聞いた。
「この前売り券を指定席券に変更できますか?」
 男はニヤリとして用意してあったと思われるセリフを口にした。
「混雑時はお断りしています」
 おれはあまりのぞんざいぶりに呆れてしまった。新規には発売していながら、変更は許さないだと? もう一度買えとでも言いたそうだ。だが、これで理解できた。
「おまえも、NEO-SEA-HORSEの奇怪人だな! チェーンジ、クイッカマン。セットアーップ」
 ここで変身のプロセスを見てみよう。かけ声と共に両腕を交差したとき、左肘が右腕のALBA Quickcaスプーンの真ん中にあるボタンを押す。瞬間、クイッカスーツのホログラム映像が浮かび上がりおれの体に重なる。映像が実体化しクイッカマンの変身が完了だ。この間、0.01秒。
 メガホン男は少し表情を変えただけで平然として言った。
「クイッカマン、噂は聞いているぞ。おれは、ぞんざい奇怪人エラソバルだ」
 "エラソバル"、カタカナで書くとそれらしい。と感心している場合ではない。おれはメガホン男に向かって言った。
「エラソバリ! これはこの劇場でしか使えないチケットだ。それを指定席券に換えられないとはどういうことだ?」
 メガホン男の姿はみるみる偉そうな中年男に変わった。
「エラソバリじゃない。それじゃ日本の妖怪みたいに思われてしまうだろうが。間違えるな、ぞんざい奇怪人エ・ラ・ソ・バ・ルだ。お前はそれでも社会人か。気をつけろ」
 うおぉ、さすがに偉そうだ。畳み掛けるような口調、しかも意味不明な説得力。
「ふっふっふっふ、交換しないのはお前だけだ。我らの計画を邪魔されたくないからな」
 いかん、このままでは劇場にいる人たちが危険だ。おれは横のエレベータを使い11階にあがった。

9:50am
 この際、立ち見でも構うものか。おれは券もぎのおねえさんにチケットを渡して劇場内に入った。ヤツら何を企んでいる? 「ID4」に見せかけて東宝の「地球防衛軍」を上映するつもりか? おれは二階への階段を駆け上がった。階段の前には「Star Trek: First Contact」の宣伝看板。近日ロードショー。近日っていつだ?
 おれは劇場に入り、立ち見客を避けて劇場のスロープを進んだ。既に映画の予告編が始まっている。おれは中腰で辺りを確認した。ん? いつもより指定席が多いような気がするぞ。指定席の背もたれにある白い布をみると「NEO-SEA-HORSE」と印刷されているではないか。その時。
「さすがだ、クイッカマン。昨夜のうちに我らの戦闘員がこっそり忍び込んで、1列余計に背もたれに白い布をかけておいたのだ」
 なるほど、その余計な分の指定席料金がNEO-SEA-HORSEの活動資金となるのか。いつもながら地道だ。
「エラソバル、お前たちのせいで座れない人や、高いお金を出して指定席に座らなくてはならなくなった人が大勢いるんだ。ゆるせん」
 エラソバルは口元に人差し指を当てて「シーッ」のポーズをとった。
「言い訳無用! クイッカCCDフラーッシュ!!」
 エラソバルはスクリーンへ吹き飛びながら叫んだ。
「『大統領のクリスマスツリー』ならすわってごらんになれまーーーーーす」
 ちゅどーん。エラソバルは大爆発を起こした。しかしその音はスクリーンの大迫力ドルビーサラウンドサウンドにかき消された。