Quickca Fight Jan 6, 1997
MDウォークマン自然ネジ取れ怪現象-->音漏れ奇怪人シャカ釈迦登場

用のSONYのMDウォークマンMZ-E3を持って秋葉原のソニーサービスステーションに行ってきた。何カ月か前から、気が付くと1つずつネジがなくなっていくという怪現象が起こっていたからだ。今日見ると計3個も無くなってしまっていた。友人に話したら「ああん、ソニーのにはよくあるやつね」と言われた。うん、確かにこんなことは前にもあったような気がする。
 おれは何台ウォークマンを買ったかわからないウォークマンフェチだ。10台は買ってるんじゃないかな。そのうち、中学生のころにお年玉で日立の携帯型カセットテープ再生専用機(ウォークマンじゃないからこう言うしかないじゃん)を買ったこと、大学の頃生協でシャープの携帯型カセットテープ再生専用機を買ったことを除いたら全部ソニーだ。この中で確かに「自然ネジ取れ怪現象」が起こった記憶がある。昔のウォークマンはよくアジマスがずれてしまったので、ときどき微調整するために、おれは精密ドライバーを持ち歩いていたのだ。アジマスを調整するときに本体のネジも絞めていたので大事には至らなかったんだと思う。
 ちなみに「アジマス」ってのは、なんの略かはわかんないんだが、テープとヘッドの角度のことで、これがずれてくるとだんだん高音部が出なくなってくるのだ。ちゃんと合わせるためには専用のテープと測定器がいる。自分ちで使っているテープデッキとだいたい同じになっていれば良いので、最も高音がクリアになればよしとしていた。
 また、昔のウォークマンは精密ドライバーがあれば、テープの速度も微調整できた。裏に本体を止めるでもないネジがいくつか付いていたのだ。適当にいじってみて「ここをいじればこうなる」ということで勝手にやっていた。これもうちで録音に使っているデッキと同じならいいので、まずはデッキでギターのチューニング用の音叉の音を録音する。440Hzの音だ。このテープをウォークマンで聞きながら音叉をたたく。ギターのチューニングの要領で音がワウワウしなくなるようにウォークマンのテープ速度を調整すれば完了だ。今のウォークマンでもできるかもしれない。

 秋葉原のサービスステーションのおじちゃんはネジを1つずつ丁寧にしっかり絞めてくれて、無くなっていたところにただでネジをつけてくれた。非常に感動。おじちゃん、ありがとう。もっとも精密ネジ3個でお金と取られたくはないけどね。

 自宅へ帰る途中の京葉線の中でおれは、今、一番お気に入りのCD「VIRTUAL-ON OFFICIAL SOUND DATA」を録ったMDを燃え燃えで聴いていた。しかし、なにやら周囲の視線が冷たい。いかん、燃え燃えをいいことにボリュームを大きくしすぎたかな。ゴメン。人の迷惑を考えずウォークマンの音をシャカシャカやっているヤツは大嫌いだ。そんなヤツには絶対なりたくない。もしもそんなことになったら、辺りの人に土下座して許しを請いたいぐらいだ。おれは自分の音がどのぐらい漏れていたのか確認するためインナーイヤータイプのヘッドフォンを外した。すると確かにシャカシャカと音が聴こえるが、おれじゃない。おれは自分のMDウォークマンを確認した。音漏れ防止機構のAVLS回路がONになっている。これなら音漏れするはずがない。辺りを見回すとそばに座っている20代前半と思える若いサラリーマンの方から音がしている。しかも曲がわかる。TRFの曲じゃないか。ぐへぇ。恥ずかしくないのがお前は。ヴァーチャロンのCDを聴いているヤツには言われたくないか。
「すみません、音が漏れてますよ」
 おれは男の左肩を軽くたたいてそう言った。すると男はちらっとおれを見て、そんなことをいう権利がお前にあるのか、というような気持ちを思い切り顔にした。絶対、した。
「お前みたいなヤツがいるとこっちまで迷惑するじゃないか。おれは歩きながらタバコを吸うヤツや人の迷惑を顧みないヤツが大嫌いなんだよ! チェーンジ、クイッカマン、セット、アーーーーーップ!!」
 おれはこれまでで一番リキを入れて叫んだ。
「世のため、人のため、自分のため。この世に悪のある限り電光石火で現れる。正義のヒーロー、クイッカマン!」
 "電光石火"はちょっとダサかったかなと思いながらも、ずっと前から練習をしていた「名乗り」と「名乗り」のポーズを取った。これがないとヒーローって感じが出ない。
「ふははは、現れたなクイッカマン。おれ様は音漏れ奇怪人シャカ釈迦だ、南無ぅ」
 男の姿は、みうらじゅんが描くインチキくさい釈迦のようになっていた。しかも両手にはマラカス。シャカシャカシャカシャカシャカシャカ。マラカスに合わせて怪しげなお経を唱えはじめた。この音には人間の理性を狂わせる波長が含まれている。おれは瞬時にそう判断し、QuickCamの音声入力回路を遮断した。無音の中で乗客がもだえ苦しんでいる様子が見える。いかん、このままではみんなが危ない。ヤツを止めなくては。
「クゥイッカキャプチャーーーァ!」
 一瞬、ヤツの動きが止まった。そこへ。
「クイッカCCDフラーッシュ!」
 クイッカCCDフラッシュは車両の屋根半分と一緒にシャカ釈迦を夜空に吹き飛ばした。折しも電車は舞浜駅に差し掛かり東京ディズニーランドのスターライトの花火が盛大に打ち上げられていた。シャカ釈迦は遥か上空で言った。
「う、ウォークマンの音漏れより、おやじのポマードのにおいをなんとかしてくれ〜ぇぇぇ!」
 ちゅど〜ん。シャカ釈迦はミッキーマークの花火になって東京ディズニーランドの空に飛び散った。