Quickca Fight Dec 22, 1996
キミはID4を見たか-->厚顔奇怪人アツゲショラ登場

座にID4を見に行ったのだがむちゃくちゃ混んでいた。始まる1時間半前に並んだのに「席は保証できない。立ち見か最前列」と係員に言われる始末だ。ばかばかしくなってやめた。ほとぼりが冷めた頃に見るとするさ。

 行きの電車の話。
 おれの横に座った若い女性が、あろう事かブラシで髪をとかしはじめたのだ。「ザッ、ザッ」。枝毛でからんだ髪がものすごい音を立てる。抜けた毛が周囲に飛び散る。またしても悪の秘密結社Neo Sea Horseの魔導師うっちーが送り込んだ奇怪人だ。
「チェーインジ、クイッカマン。セットアァップ!」
 おれは左肘に右手首をクロスした。手はグーにして体の低い位置でウルトラセブンのワイドショットのポーズを取っているような感じ、これがクイッカマンの変身ポーズだ。本当はポーズ無しでも変身できる。ま、雰囲気を盛り上げるためだ。この間、0.01秒。
「きさま、こんなところで髪をとかして、きたないじゃないか!」
「ほーほほほ、私は厚顔奇怪人アツゲショラ。そんなものはお構いなしよ。こんなことまでするわ」
 アツゲショラはコンパクトの鏡を見ながら、まつげカーラーで逆さまつげを修正し、マスカラを塗りはじめた。なぜがその間、口がぱくぱくしている。
「ぬぉお、揺れる電車の中でよくそんなことができるな。そんなに真剣に化粧をしているところを他人に見られて恥ずかしくないのか!」
 おれはヤツのテクニックに半分感心しながら以前から疑問に思っていることを浴びせかけた。
「彼氏にだけは見られたくないわ」
「なに!?」
 理解不可能だ。そういうものなのか。おれの戸惑いを見抜き、アツゲショラはコンパクトパフ手裏剣を放った。パフには汗でも流れない強力パウダーが仕込まれている。おれは左腕のプロテクターで防いだが、パウダーが辺りに飛び散った。
「くっ、くるしい…」
 周りの乗客が苦しんでいる。ここで闘うのは危険だ。そのとき列車はちょうど新木場駅に到着した。
「アツゲショラ、こっちだ」
 おれはヤツを列車の外におびき出した。その瞬間、辺りは宅地造成所にかわった。不思議だったがヒーローものにはよくあることなので気にしない。
 アツゲショラはマニキュアのしすぎで、ぼろぼろになった爪の表皮をはいだ。おれはいつの間にか、やつに風上というポジションを取られていたのだ。ヤツの爪の表皮は風に乗って降りかかる。
「ぐぁっ、きたねー。クイッカパンチ、パンチ、パンチ、キーック!」
 最後のキックの裏蹴りが、かがみ込んだアツゲショラの顔面にヒット。中段攻撃が運良く顔面に当たったのだ。ヤツの顔面はひび割れ、崩壊しはじめた。アツゲショラの素顔が見えてきた。
「やめて、見ないで〜」
 アツゲショラはもだえ苦しんでいる。厚顔というのはこういう意味だったのか。中からはどう作ればさっきのような顔になるのかわからない地味な顔が出てきた。
「なんか、感じ違うね」
 おれはアツゲショラにかける言葉が見つからず、おざなりな意見を言ってしまった。しかし、アツゲショラは察していた。
「だから、いつも化粧をしていたのよぉぉぉ」
 ちゅどーん。アツゲショラはそう言うと同時に大爆発を起こした。
「わかった。しっかり化粧をしてくれ。ただし、周りの人に迷惑だけはかけないで欲しい」
 おれは立ち登る爆炎に向かって、そうつぶやいた。